犬のしつけコラム第12回おやつゼロ神話への叛逆
「おやつがないと言うことを聞かなくなるから、おやつで釣るのは良くない」
「愛犬には、おやつがなくても私を信頼して動いてほしい」
現場でもよく耳にする言葉で、理想としてとてもきれいに聞こえる言葉かもしれません。
でも、私は少し立ち止まって考えてみたいのです。
「おやつがないとできない」って、本当にそんなに困ったことでしょうか?
おやつがあれば、できる。
それならそのおやつを使えばいい。
もちろん、トレーニングの中でおやつを見せて誘導する段階から次へ進んだり、ご褒美を渡す頻度を調整したりすることはあります。その方が楽しく取り組める犬だっています。
でも、それは「すべての犬が、すべての場面で、最終的にはおやつゼロを目指さなければならない」という話とは別なはずです。
そもそもその子は、本当に「おやつがないとできない」のでしょうか。
「おやつがないなら、やりたくない」だけかもしれません。
とはいえ、私自身も「おやつなしでできる方がいい」という考えに、引っ張られたことがあります。
🍪 ハーネスと「一粒の約束」
我が家のひなきは、ハーネスを装着するのが苦手です。
今でも、ハーネスを出すと「いやー」となることがあります。
ですが、フードが一粒あれば話は別。彼女は自分から頭を通してくれます。
家族はこの様子を見て「甘やかしている」と言いました。
そうか、甘やかしているように見えるのか、やっぱりフードなしでもできるようにならなくちゃ!
ある日私は彼女の首輪をキャッチしてハーネスを装着しました。
ひなきは人を咬むという選択肢がない犬です。力で抑え込めば、装着するのは容易い。――筈でした。
そうやって装着した、その時のひなきの顔、私は一生忘れません。眉間に盛大な皺を寄せて、上目遣いに「……なんでぇ?」と。あんなに悲しそうな顔を見たのは初めてでした。
装着できたのは、私が正しかったからじゃない。私を信頼しているからでもない。彼女が牙という武器を持っているのに、それを使わずに耐えてくれたから。私は彼女の優しさに、ただ乗りしていただけ。
さて、本当に甘えていたのは果たしてどちらだったでしょうか?
そして――次の日から、私はハーネス装着時に再度必ず一粒、フードを持つようになりました。
彼女が我慢するのではなく、自分から頭を通してくれるように。
一粒あれば、ひなきは自分から頭を通してくれる。それなのに私は、なぜその一粒をなくすことに価値があると思ったのか。
フードなしでも「装着すること」はできました。
でも、これは「できるようになった」ではない。
おやつを使うか、使わないか。大切なのは「ゼロにすること」そのものではなく、その犬、その場面に合った方法を選ぶことではないでしょうか。
🍪 では「一生おやつを持ち歩かなきゃいけないの?」
私は自信を持って答えます。必要なら「YES!」と。
お散歩で苦手な犬をスルーできた時。何も言わなくてもこちらを見た時。その子が頑張った一瞬一瞬に、「頑張ったね」「ありがとう」を形にできる。
もちろん、毎回必ずおやつでなければならないとも思いません。犬によって、場面によって、ご褒美の種類や頻度を変えることもあります。
そして、私がおやつを渡したい理由は、トレーニングのためだけではありません。
私は、犬がこちらの都合に付き合ってくれた時には、「協力してくれてありがとう」と返せる関係でいたいと思っています。
だから、必要なら私は一生おやつを持ち歩きます。