犬のしつけコラム第14回「反省したのにまたやった!分かってるのにわざとやってる!!」 ――その物語、本当にそこまで分かってる?
留守番から帰ってきたら、いつもと違う場所におしっこ。
「もう! わざとでしょ😡」
「留守番させたから、嫌がらせしたんじゃない?」
こんなふうに思ったことはありませんか?
でも、本当にそうでしょうか。
たまたま間に合わなかったのかもしれない。
いつもと何か環境が違ったのかもしれない。
身体的な理由があるのかもしれない。
もしかしたら、不安だったのかもしれない。
もちろん、この中のどれかが正解だとすぐに判断できるわけではありません。
まだ、分からない。
実際に見えたのは、「留守番中、いつもと違う場所に排泄した」ということ。
そこに「わざと」、「嫌がらせ」という名前をつけた瞬間、私たちは理由まで分かったような気持ちになってしまいます。
でも、もし本当は不安だったとしたら。
「わざと」「嫌がらせ」で話を終わらせてしまった時、その子の不安な気持ちはするりと零れ落ちていきます。
似たことは、「反省しているように見える顔」でも起こります。
何かしてほしくないことをした犬を叱ったら、頭を下げる。
視線をそらす。
身体を低くする。
「ほら、反省してる。悪いことだって分かってるんだ」
ところが、しばらくするとまた同じことをする。
「反省したのに、またやった😡」
「分かってるのにやってる!」
「やっぱり、わざとじゃん!」
でも、ここにも一度立ち止まって考えたいことがあります。
「反省顔」について調べた、こんなユニークな実験があります。
犬の前に「食べてはいけないおやつ」を置き、飼い主が部屋を離れます。
その後、犬が実際におやつを食べたかどうかと、飼い主に叱られたかどうかを分けて比べました。
ところが――
本当はおやつを食べていない犬でも、飼い主に叱られると「反省しているように見える行動」が多く見られました。
そして実験全体で見ると、「反省顔」に見える行動と関係していたのは、おやつを食べたかどうかではなく、飼い主に叱られたかどうかでした。
つまり、「反省しているように見える」ことだけでは、犬が「自分は悪いことをした」と理解している証拠にはなり得ないんです。
さらに別の研究では、犬がこうした「反省顔」を見せると、叱る程度を弱めると答えた飼い主もいました。
では、もし、
↓
「反省顔」に見える行動をする
↓
飼い主が叱るのをやめる
という経験が繰り返されていたら?
犬にとって、その行動をすることで嫌な状況が弱まる、という学習が起きる可能性も考えられます。
「反省顔」に見える行動が何を意味しているのかは、その犬と、その時の状況を見なければ分かりません。
それなのに、人の側ではそれを、
「叱ったから、悪いことだと理解して反省した」
と受け取っていたらどうでしょう。
次に同じことが起きた時、
「分かっているのに、またやった」
「わざとやっている」
という解釈は、ますます強くなり――
犬の行動が、その解釈が正しいことを証明しているように見えてしまう。
そんなループに陥る可能性もあります。
これは、「わざと」「反抗」「嫌がらせ」のような、ネガティブな言葉だけの話ではありません。
たとえば、
「尻尾を振っているから、喜んでいるはずなのに」
これも、よく聞く言葉です。
犬は、嬉しい時だけに尻尾を振るわけではありません。
うちのひなきも、犬が近づいてくると、ゆっくり尻尾を振ることがあります。
そして、さらに距離が縮まり、彼女の閾値を超えると、ぎゃーーー😱と吠えます💥
あの尻尾が何を意味しているのか。
私は、「嬉しいんだね」の一言だけで終わらせることはできません。
「尻尾を振っている」は、私が見たこと。
「喜んでいる」は、そこから私が読み取ったこと。
この二つは、同じではありません。
分からないことを、分かったことにしない
私たちは、犬の行動を見た時に、そこに意味をつけながら暮らしています。
それ自体が悪いことだとは思いません。
私だって毎日、
「これ嫌だった?」
「今の楽しかった?」
「何が気になったんだろう?」
と、犬たちの行動から気持ちを考えています。
でも、
「嫌がらせ」
「反抗」
「反省している」
「喜んでいる」
そんな一つの言葉で答えを出した時。
そこから零れ落ちてしまうものはないでしょうか。
見えたことと、そこから考えたことは、同じではありません。
分からないことを、早く分かったことにしない。
「この子は、なぜこうしたんだろう?」
その問いを残しておくこと。
私は、それが犬を見る時に、とても大切なことだと思っています。
【参考文献・資料】
Horowitz A. Disambiguating the “guilty look”: Salient prompts to a familiar dog behaviour. Behavioural Processes. 2009;81(3):447–452.
DOI: 10.1016/j.beproc.2009.03.014
Hecht J, Miklósi Á, Gácsi M. Behavioral assessment and owner perceptions of behaviors associated with guilt in dogs. Applied Animal Behaviour Science. 2012;139(1–2):134–142.
DOI: 10.1016/j.applanim.2012.02.015
Quaranta A, Siniscalchi M, Vallortigara G. Asymmetric tail-wagging responses by dogs to different emotive stimuli. Current Biology. 2007;17(6):R199–R201.
DOI: 10.1016/j.cub.2007.02.008