第10回【後編】柴犬の「静かな愛」の正体 ――見つめ合うことだけが、信頼のものさしじゃない。
🐕 「見つめ合う=愛情」だけじゃない
犬と視線が合うと「幸せホルモン」が出てハッピー!
そんなお話を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
犬と人との信頼関係について語られるとき、よく登場するのがこの「視線の共有」です。
実際に、麻布大学の菊水健史先生らの研究において、犬と飼い主が見つめ合うことと、双方のオキシトシンの変化との関係が報告されています。
私は以前、菊水先生の講演で、この一連の研究について直接お話を聞く機会がありました。
当時の講演ではここからさらに一歩踏み込んで
「じゃあ、あまり目を合わせない犬はどうなんだろう?」
という話が展開されました。
日本犬も飼い主への視線をコミュニケーションに使います。
一方で、飼い主への接触や近接などには違いが見られ、視線以外の方法も使いながら人との関係を築いている可能性についてもお話がありました。
そしてそこで紹介されたのが、飼い主と日本犬が同じ空間で過ごす実験でした。
同じ空間で過ごすだけでもオキシトシンが分泌されるのではないか――
そうと言い切れる結論が出たわけではありませんでしたが、
「見つめ合うこと」だけが幸せや信頼の指標ではない。
という示唆に富んだ研究内容だけで私は鳥肌ものでした!
そして柴犬、なんて可愛い生き物なんだ……!!
と強烈に思ったのを覚えています(笑)。
もちろんこれは、「柴犬はみんな目を合わせない」という話ではありません。
少し離れたところからこちらを気にしている子もいる。
触れ合うのが好きな子もいれば、同じ部屋で静かに過ごすことを好む子もいる。
愛情や信頼の表し方まで、犬によって違う。
だから「うちの子、あまり目を合わせてくれないな」と、それだけで寂しくならなくていいんです。
👀 見つめすぎは「通報案件」!?
だからと言って見つめすぎるのも考えもの。
視線はいつでも心地よいものとは限りません。
初対面の人に、無言で至近距離から見つめられたらどうでしょう。
親愛どころか、私はたぶん逃げます。場合によっては通報案件です(笑)。
犬にとっても、じっと見つめられることがプレッシャーになる場合があります。
大切なのは、こちらが「仲良くしたいから」と一方的に距離を縮めることではありません。
何より、人同士でも、犬と人でも、相手のパーソナルスペースを尊重することは、対等な個体としての「礼儀」です。
相手が言葉を持たないからといって、こちらの都合でその境界線に土足で踏み込んでいい理由にはなりません。
「柔らかな視線」を送る時もあれば、「あえて見ずに、空間の共有を楽しむ」時もある。その子にとって心地よい距離を探していくことも、多様な個性を持つ彼らとの、大切な対話の時間です。
🐕 目の前のその子を見る
犬との関係を「どちらが上か」で考えるのをやめると、代わりに見なければならないものが一気に増えます。
何が苦手なのか。
どのくらいの距離が心地よいのか。
今はこちらを見たいのか、それとも放っておいてほしいのか。
それを見極めるところから始めてみませんか。
次回の特別編では、
「犬が自分を上だと思っているのでは?」というご相談の中でも、特に注意が必要な「唸る・噛む・ものを守る」という行動について、安全面から考えていきます。